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これは、現代ではない、 魔法と剣が世界を動かすとある国のとある昼下がりのお話です。 その国の王城から南西に人の足ならば1ヶ月も歩けば着く距離に広大な森が広がっています。 その森の奥に白い壁の大きな城がありました。 王城には劣りますが、その城も大変立派なものでした。 私たちの世界で言うサムライの着物に近いそれでいて長く、深い綺麗な色の服を着た魔法使い・メジテはいつもの様に弟子のビアンカの様子を見に城へとやって来ました。 ―メジテは見習い魔法使いの師匠でありながらその国の王室付きの魔法使い様でもあったのです。 その為に午前中はほとんど王室の仕事で城を留守にしていて、弟子の様子を見に来るのはだいたい昼下がりから夕方になってしまいます。 ですが、メジテは大変優しく弟子想いの魔法使いでした。 まだ親元を離れて間もない弟子・ビアンカの為に毎日仕事を急いで終わらせて帰ってきては魔法を教え、 夕食を作り、弟子が眠るまで見届けてまた王城に戻るのです。 しかし、ここは深い森の奥の城です。 いくら魔法使いの弟子とは言え、うっかり外を歩こうものならどんな危険な魔物に襲われるとも限りません。 「いいか、ビアンカ。この城には強い結界が張ってある。もし、結界に何らかの衝撃があっても精霊たちが守ってくれるけど、自分から外に出るんじゃないぞ。」 数日前の同じ昼下がり、メジテはいつものようにビアンカにこう言って聞かせていました。 しかし、当のビアンカは椅子に座ったままつまらなそうに足をブラブラさせて言いました。 「自分から出るも何も、お師匠様の結界が弟子の私に破れるわけ無いわ。」 メジテのこの話は耳にタコが出来るほど聞かされてきたビアンカですから無理も無いのですが、メジテは心配でしかたありません。 「メジテ、大丈夫よ私たちが付いているでしょう?」 窓辺に腰掛けた透き通るように白い美しい女性。 銀色の髪と尖った耳、トンボのような透き通った羽を持つ深い森の樫木の精霊がメジテに言います。 彼女はメジテの育ての親で、サラという名前です。 元々名前を持たない精霊だったサラにメジテがサラと呼んだのが始まりだったのですが、サラはこの名前が気に入っていてサラと呼ばないと返事をしません。 まして、『深い森の樫木の精霊』なんて呼ぼうものなら機嫌を損ねてしまいます。 「サラ、あなただってこの森の魔物が恐ろしい事くらい知っているでしょう?用心にこした事はないんです。」 メジテはため息混じりにサラに言いました。 この深い森で親に置き去りにされたメジテは魔物に襲われているところをサラに助けられたのです。 サラの長く美しい髪と引き換えに魔物はメジテを離しました。 その為か、メジテは身を守る手段として魔法を習得しました。 元々魔力が強く、頭のいい子だったメジテは若くして王室魔法使いに抜擢されたのです。 「ねぇ、お師匠様。それより、わたしお腹がすいたわ。」 ビアンカは机に足をかけて椅子を揺らしながら言いました。 「いいわね。私、メジテのクラムチャウダーが食べたいわ。」 楽しそうに言ったのはサラです。 「こら!ビアンカ、お行儀が悪いぞ!」 ぺしっ!とビアンカの膝を叩いてメジテが叱ります。 「サラ、いつも同じものばかり言って。それは昨日も食べたでしょう。」 …と、まあこんな感じでメジテが毎日大変に過ごしているこの城に、 今日、異変が起きたのです。
何も知らないメジテは城に向かって歩きながら今夜の献立を考えていました。 魔法使いであるメジテは空間をゆがめてこの城に一瞬にして戻ってきますが、いつも城の警護も兼ねて城から少し離れた所から結界をチェックしながら徒歩10分の道のりを歩いて帰ってくるのでした。 ようやく城の入り口が見えてきた所に、メジテはやたらに陽気な歌声を聞きました。 よく見ると歌声に合わせてまわりの植物はぐんぐんと成長して城はもう緑のつたやら花やらで覆われ始めていました。 「サラ!!!一体全体これはどういうことですか!!?」 大広間に入ると、真っ赤に上気したサラがワインのビンを片手に陽気に歌っているではありませんか。 大広間の中にもツタや花やぶどうが満開になっていました。 深い森の樫木の精霊であるサラが歌うとこういう力があるのです。 しかも今は酔っ払ってタガが外れてしまっている様です。 「あらぁ〜?にゃ〜んだvあたしのメジテちゃ〜んおかえりなさ〜いvでありま〜すぅv」 すっかり出来上がったサラを掻き分けてメジテはビアンカを探します。 しかし、ビアンカはどこにもいません。 困り果てたメジテは水晶球の魔法でビアンカの位置を調べました。 「……セレス平原…。」 なんと、ビアンカは王都に程近いセレス平原にいたのです。 サラにワインを飲ませて隙を作り、その隙から箒に乗って王都に向かって飛んで行った様でした。 メジテは部屋で歌うサラに眠りの呪文をかけると、 ビアンカの部屋に向かいました。 探す相手の常にそばにある物を媒介にしてビアンカのところまで時空を曲げる魔法を使うためです。 ビアンカの机の上には師匠メジテに向けての置き手紙が有りました。 『師匠へv 急にいなくなってごめんなさい。 王都の魔法学校のアイドル マルス先輩を一目見たくて…。 本当にごめんなさい! あ、箒借りていきますv』 「ビ〜ア〜ン〜カ〜〜〜っ!!!」 城にメジテの叫びがこだました事は言うまでも有りません。 そして、王都を目前にしてメジテに捕まったビアンカがどうなったかは…。 …扉の向こうの泣き声とお尻を叩く音でご理解ください…。 ああ、もうすぐ終わる頃でしょうか。 え?私ですか? 私はこの城の盆栽の精でショーンと申します。 こちらでは執事のような事をしています。 私は元々あなた方の世界からとある方に連れられてこちらに来たのですが… まあ、それはまたお会いすることもありましょうその時にでも、ゆっくりと。 ああ、そうそう、サラが暫らく禁酒を言い渡されたのは言うまでも有りません。 :::::::::: しかし、後日魔法学校への推薦状を書いてあげる激甘のメジテでしたとさ。
前に描いたイラストで、 ピンクの髪の少女だった 魔法使いの弟子のルルー編に出てきた ビアンカの師匠です。 苦労人メジテ。 ビアンカが唯一ちょっと怖いと思う部分が本の少しある人です。 つか、ビアンカに怖いものなど無いのですが。
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